解説
ドイツのソーセージは豚肉、オランダのチーズは牛乳、イタリアのピザやワインは小麦やぶどうからつくられます。料理の原料をたどると、その国でさかんな農業が見えてきます。ヨーロッパは地域によって気候がちがい、その気候に合った農業が行われています。地中海式農業・混合農業・酪農の3つの農業と、EUの共通農業政策、フランスの農業が、この単元の中心です。
ヨーロッパの農業は気候で分かれる 料理から農業へ
まず、料理と原料と農業を表で結びつけておきます。
国 | 料理 | 原料 | 農業 |
|---|---|---|---|
ドイツ | ソーセージ | 豚肉 | 混合農業 |
オランダ | チーズ | 牛乳 | 酪農 |
イタリア | ピザ・ワイン | 小麦・トマト・ぶどうなど | 地中海式農業 |
ただし、1つの国で1つの農業だけが行われているわけではありません。表の国は、その農業の代表例です。たとえばフランスでは、南で地中海式農業、北や山地で酪農が行われています(3の節)。
1地中海式農業 夏に乾燥する地中海のまわり
地中海は、ヨーロッパの南にある、ヨーロッパ・アフリカ・アジアに囲まれた海です。このまわりには、イベリア半島の大部分をしめるスペイン、地中海に長ぐつの形につき出たイタリア、地中海の東に突き出たバルカン半島の南のはしにあるギリシャがあります。
地中海のまわりは、夏は暑くて雨が少なく、冬はおだやかで雨が多い気候です。これを地中海性気候といいます。ギリシャの首都アテネの平年値を、フランスの首都パリとくらべてみましょう。
地点 | 気候 | 年平均気温 | 年降水量 | 夏(6〜8月)の降水量 | 冬(11〜1月)の降水量 |
|---|---|---|---|---|---|
アテネ(ギリシャ) | 地中海性気候 | 18.9℃ | 375.9mm | 9.8mm・9.4mm・2.6mm | 66.1mm・65.5mm・52.2mm |
パリ・オルリー空港(フランス) | 西岸海洋性気候 | 12.0℃ | 622.8mm | 58.4mm・53.1mm・62.3mm | 54.6mm・62.2mm・44.8mm |
出典: 気象庁「世界の天候データツール(ClimatView)」平年値(統計期間 1991〜2020年、単位: ℃・mm。年の値は月の値から計算)
アテネは、6〜8月の夏に雨がほとんど降らず、11〜1月の冬に雨が多くなります。夏に乾いて、冬に雨が降る気候です。
この気候に合わせた農業が、地中海式農業です。夏は雨が少ないので、夏の乾燥にたえる木の作物を育てます。オリーブやぶどう、オレンジなどのかんきつ類で、おもに丘の斜面でつくられます。平地では、冬の雨を使って小麦をつくります。羊やヤギなどの家畜も飼います。夏の乾燥にたえる木の作物と、冬の小麦、それに羊やヤギの飼育を組み合わせた農業、と覚えておきましょう。
名前の書き分けにも注意が必要です。気候は「地中海性気候」、農業は「地中海式農業」で、「性」と「式」の字がちがいます。また、地中海式農業でも小麦をつくるので、「小麦をつくるから混合農業」と単純に結びつけることはできません。
では、どの国で多くとれるのでしょうか。下の表の順位は、EUの国の中での順位です。
作物 | EUで1位 | EUで2位 | EUで3位 | 1位の国がEUの生産量にしめる割合 |
|---|---|---|---|---|
オリーブ | スペイン(約831万t) | イタリア(約230万t) | ギリシャ(約169万t) | 60.4% |
ぶどう | イタリア(約764万t) | スペイン(約539万t) | フランス(約477万t) | 34.2% |
オレンジ | スペイン(約290万t) | イタリア(約181万t) | ― | 48.6% |
出典: Eurostat(EU統計局)作物の生産量(2024年、単位: t=トン。千トンの値を万トンに丸めた。EUは2024年の時点の加盟国27か国の合計。割合は国別の値とEUの合計から計算。ギリシャのオリーブは推計値)
2024年の統計で、EUのオリーブの半分以上をスペインがつくっています。ぶどうはイタリア、オリーブとオレンジはスペインが、EUで1位です。どれも地中海のまわりの国が上位に並びます。
2混合農業と酪農 西ヨーロッパから東ヨーロッパ・北海のまわり・アルプス
西ヨーロッパの気候は、地中海のまわりとはちがいます。上の表で、パリは毎月40〜60mm台の雨が降っていました。暖流や偏西風などの影響で、冬もそれほど寒くなく、雨は1年を通して同じくらい降ります。これを西岸海洋性気候といいます。この気候の地域では、いろいろな作物がつくられ、酪農もさかんです。
混合農業 作物づくりと家畜の飼育の組み合わせ
混合農業は、作物づくりと家畜の飼育を組み合わせた農業です。つくる作物は小麦や大麦、じゃがいもなど、飼う家畜は豚や牛などです。混合農業では、肉にする家畜を飼うのが中心です。
混合農業では、畑と家畜がつながっています。畑では、人が食べる作物のほかに、家畜のえさになる作物もつくります。これを飼料作物といいます。そして、家畜のふん尿は、畑の土を肥やすのに使われます。作物が家畜を育て、家畜が畑を肥やす、という組み合わせです。
混合農業は、西ヨーロッパから東ヨーロッパまでの広い範囲で行われています。ヨーロッパの農業の形は、歴史的に混合農業だったとされています。なお、牛を飼っていても、乳牛を飼って牛乳をとるのが中心なら、それは酪農とよびます。
酪農 北海のまわりとアルプス山脈
酪農は、乳牛などを飼って牛乳をとり、バターやチーズなどの乳製品をつくる農業です。乳牛はすずしい気候を好みます。牧草などのえさをつくって、乳牛を飼います。
酪農がさかんな場所は、大きく2つあります。
1つ目は、北海のまわりです。北海は、イギリスとオランダ・ドイツ・デンマーク・ノルウェーなどに囲まれた海です。ヨーロッパの北西にあるオランダや、北海とバルト海の間にあるデンマークは、チーズなどの乳製品で有名です。デンマークは、牛乳や乳製品の生産と輸出で知られています。
2つ目は、アルプス山脈です。アルプス山脈は、スイス・フランス・ドイツ・イタリア・オーストリアなどにまたがる大きな山脈です。アルプス山脈の中にあるスイスは、アルプスで牛を放す高原の酪農で知られています。雨が多い山地では穀物をつくるのがむずかしいので、牛などを飼うのが中心です。夏は山の上の牧場に牛を放し、冬はふもとの村で飼います。
酪農の場所は、北海のまわりとアルプス山脈の2つをセットで押さえます。
園芸農業 大都市のまわり
もう1つ、園芸農業という農業もあります。大都市へ出荷するために、野菜や花、果物などをつくる農業で、大きな都市のまわりで行われています。教科書によっては、地中海式農業・混合農業・酪農に園芸農業を加えて、4つで整理していることもあります。
3共通農業政策とフランス 1962年に始まった政策とEU最大の農業国
共通農業政策 守る→増える→作りすぎ→見直し
共通農業政策は、EUの国々が同じ決まりで進める農業の政策です。EUができる前の、1962年に始まりました。
はじめのねらいは、食料不足をなくすことでした。そして、EUの外から入ってくる農産物から、EUの中の農業を守りました。農産物の値段を支えたり、補助金を出したりして、農家の所得を支えてきたのです。
その結果、生産が増えて、1980年代には必要な量より多くの食料がつくられるようになりました。この作りすぎを過剰生産といいます。しかも、値段を支えるのにたくさんのお金がかかり、重い負担になりました。
そこで、値段を支えるやり方を減らし、農家に直接お金を払う形などへ、何度も見直されてきました。共通農業政策には、EUのお金の大きな部分が使われてきました。欧州委員会によると、2021〜2027年の期間には、共通農業政策に3870億ユーロが割り当てられています。このお金をめぐる国どうしの話は、No.30「EUがかかえる課題」でくわしく扱います。
流れは「守る → 生産が増える → 作りすぎとお金の負担 → 見直し」の順につかんでおきます。
フランスの農業 EU最大の農業国
フランスは、西ヨーロッパのほぼまん中にある国で、EU最大の農業国です。2024年の統計で、農業でつくったものの生産額、つまりお金で合計した額が、EUの国の中でいちばん多いのがフランスです。
EUの中の順位 | 国 | 農業の生産額 |
|---|---|---|
1位 | フランス | 約883億ユーロ(EUの合計の16.6%) |
2位 | ドイツ | 約755億ユーロ |
3位 | イタリア | 約702億ユーロ |
4位 | スペイン | 約687億ユーロ |
― | EU(2024年の時点の加盟国27か国の合計) | 約5317億ユーロ |
出典: Eurostat(EU統計局)農業の経済計算(2024年、単位: ユーロ。百万ユーロの値を億ユーロに丸めた。農業部門の産出額。EUは2024年の時点の加盟国27か国の合計。割合は計算値)
イタリアとスペインの差は小さく、Eurostat の2025年の推計ではスペインが3位になっています。3位・4位は年によって入れかわるので、答えるときは何年の統計かを見ます。
小麦の生産量も、2024年の統計で、フランスがEUで1位です(約2538万t。EUの小麦の22.7%。2位ドイツ、3位ポーランド)。生産額はお金の額、小麦の生産量は量なので、何をくらべた順位なのかを分けて読みます。
出典: Eurostat(EU統計局)作物の生産量(2024年、単位: t=トン。普通小麦とスペルト小麦の値。割合は計算値)
フランスの首都パリは、フランスの北部、パリ盆地のまん中にあります。フランスの農業の中心は、このパリ盆地などです。パリ盆地の広い台地では、大きな農園で、小麦などを少ない人数でつくっています。それからフランスでは、南で地中海式農業、北や山地で酪農も行われていて、1つの国の中に3つの農業がそろっています。
食料自給率 2023年の試算でフランスは119%
食料自給率は、自分の国で食べる食料を、自分の国でどれだけまかなえているかを表す割合です。下の表は、食べ物のカロリー(熱量)で計算した食料自給率です。
国 | 食料自給率(カロリーベース) |
|---|---|
フランス | 119% |
ドイツ | 81% |
イギリス | 56% |
イタリア | 51% |
日本(2025年度) | 37% |
出典: 農林水産省「世界の食料自給率」(2023年の試算、日本のみ2025年度の試算、単位: %。FAO(国連食糧農業機関)の資料などを基に農林水産省が試算)
2023年の試算で、フランスの食料自給率は119%で、100%をこえています。日本は、2025年度の試算で37%です。自給率は年によって変わるので、何年の試算かとセットで覚えます。
まとめ 気候から農業、そしてEUの政策へ
ヨーロッパの農業は、次のように一本の線でつなげられます。
地域によって気候がちがう → 夏に乾燥する地中海のまわりは、木の作物と冬の小麦の地中海式農業 → 西ヨーロッパから東ヨーロッパの広い範囲は、作物と家畜を組み合わせた混合農業 → 北海のまわりやアルプスは、乳製品をつくる酪農
そのうえで、EUは1962年に始まった共通農業政策で農業を守ってきましたが、作りすぎとお金の負担から見直しを重ねてきました。フランスは2024年の統計で農業の生産額がEUで1位のEU最大の農業国で、食料自給率も2023年の試算で100%をこえていました。
まとめの表
農業・政策 | 場所 | 押さえること | 統計(何の数・調査年次・出典) |
|---|---|---|---|
地中海式農業 | 地中海のまわり(スペイン・イタリア・ギリシャなど) | 地中海性気候(夏に乾燥・冬に雨)。夏の乾燥にたえるオリーブ・ぶどう・かんきつ類の木の作物、冬の小麦、羊・ヤギ | オリーブの生産量の EU での1位 スペイン(EUの60.4%)・ぶどうの生産量の EU での1位 イタリア(2024年・Eurostat) |
混合農業 | 西ヨーロッパから東ヨーロッパの広い範囲 | 作物(小麦・大麦・じゃがいもなど)づくりと家畜(豚・牛など)の飼育の組み合わせ。飼料作物とふん尿で畑と家畜がつながる | ― |
酪農 | 北海のまわり(オランダ・デンマーク)・アルプス山脈(スイス) | 乳牛を飼って牛乳・チーズ・バターなどの乳製品。乳牛はすずしい気候を好む | ― |
園芸農業 | 大都市のまわり | 大都市へ出荷する野菜・花・果物 | ― |
共通農業政策 | EUの国々 | 1962年に始まる。農業を守り農家の所得を支える → 1980年代に過剰生産・お金の重い負担 → 見直し | 2021〜2027年の期間の予算 3870億ユーロ(欧州委員会) |
フランスの農業 | 西ヨーロッパのほぼまん中・パリ盆地 | EU最大の農業国。パリ盆地で小麦などを大規模に。南で地中海式農業、北や山地で酪農 | 農業の生産額の EU での1位(EUの16.6%)・小麦の生産量の EU での1位(2024年・Eurostat)/カロリーベースの食料自給率 119%(2023年の試算・農林水産省) |
用語のまとめ
用語 | 種類 | 意味 |
|---|---|---|
地中海性気候 | 気候 | 夏は暑くて雨が少なく、冬はおだやかで雨が多い気候。地中海のまわりに見られる |
地中海式農業 | 農業 | 夏の乾燥にたえるオリーブ・ぶどう・かんきつ類などの木の作物と、冬の小麦、羊やヤギの飼育を組み合わせた農業 |
西岸海洋性気候 | 気候 | 暖流や偏西風などの影響で、冬もそれほど寒くなく、雨が1年を通して同じくらい降る気候 |
混合農業 | 農業 | 小麦などの作物づくりと、豚や牛などの家畜の飼育を組み合わせた農業。肉にする家畜を飼うのが中心 |
飼料作物 | 作物 | 家畜のえさにするためにつくる作物 |
酪農 | 農業 | 乳牛などを飼って牛乳をとり、バターやチーズなどの乳製品をつくる農業 |
乳製品 | 食品 | 牛乳からつくるバター・チーズなど |
北海 | 海 | イギリスとオランダ・ドイツ・デンマーク・ノルウェーなどに囲まれた海。まわりで酪農がさかん |
アルプス山脈 | 山脈 | スイス・フランス・ドイツ・イタリア・オーストリアなどにまたがる大きな山脈。スイスでは高原の酪農 |
園芸農業 | 農業 | 大都市へ出荷するために、野菜・花・果物などをつくる農業。大都市のまわりで行われる |
共通農業政策 | 政策 | EUの国々が同じ決まりで進める農業の政策。1962年に始まった |
過剰生産 | ことがら | 必要な量より多くつくってしまうこと。共通農業政策のもとで1980年代に問題になった |
パリ盆地 | 地形 | フランスの北部、首都パリのまわりの盆地。フランスの農業の中心の1つで、小麦などを大規模につくる |
食料自給率 | 割合 | 自分の国で食べる食料を、自分の国でどれだけまかなえているかを表す割合 |
EU最大の農業国 | 国の特徴 | フランスのこと。2024年の統計で、農業の生産額がEUの国の中でいちばん多い |
よくある間違い
気候は「地中海性気候」、農業は「地中海式農業」です。 気候の名前には「性」、農業の名前には「式」を使います。字がにているので、書きまちがえやすいところです。
地中海式農業では、木の作物のほかに、冬の雨を使って小麦もつくり、羊やヤギも飼います。 オリーブやぶどうだけの農業ではありません。小麦があるから混合農業、と決めつけないようにします。
混合農業は、作物づくりと家畜の飼育を組み合わせた農業です。 記述問題では「作物」と「家畜」の2つを必ず入れて書きます。家畜のふん尿は畑の土を肥やすのに使われます。
酪農がさかんなのは、北海のまわりとアルプス山脈などです。 オランダ・デンマークとスイスをセットで覚えます。乳牛がすずしい気候を好むことが、酪農の理由の1つです。
共通農業政策が始まったのは1962年で、EUができる前です。 はじめは食料不足をなくすためで、やがて過剰生産とお金の負担が問題になり、見直されてきました。
2024年の統計で、フランスはEUの国の中で農業の生産額が1位です。 この記事の表の順位は、どれもEUの国の中の順位です。生産額(お金)と生産量(量)のどちらの順位かも分けて読みます。
フランスの食料自給率は、2023年の試算で、カロリーベースで119%です。 自給率は年によって変わるので、何年の試算かとセットで覚えます。
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3つの農業の場所をざっと見たいときはアニメーション編を、雨温図や統計の見方までくわしく知りたいときは詳細解説編の動画を見てください(動画は準備中です)。
重要語句 混合農業、酪農、地中海式農業、共通農業政策