解説
イギリスで始まった産業革命から、ヨーロッパの工業の歴史は始まります。石炭と鉄でさかんになったドイツのルール工業地域、国どうしで部品を分けてつくるエアバス社の飛行機、東ヨーロッパへ移っていく工場、北海のまわりの風力発電。この単元では、どこで、なぜその工業がさかんになったのかが、場所と理由の組で問われます。
ヨーロッパの工業の始まり 18世紀後半のイギリスから
ヨーロッパの工業は、18世紀後半にイギリスで始まった産業革命から発達しました。産業革命は、新しい技術で産業や社会が大きく変わったことです。イギリスには、鉄鉱石や石炭がたくさんありました。
産業革命は、やがてヨーロッパの国々に広がっていきます。ドイツでは、19世紀の中ごろに始まりました。始まりは「18世紀後半のイギリス」と、年代と国をいっしょに押さえます。
1ルール工業地域と鉄鋼業 ドイツ西部の石炭と鉄鉱石
石炭と鉄鉱石とライン川
ルール工業地域は、ドイツの西部にある、ドイツでいちばん大きな工業地域です。ライン川の支流の、ルール川のまわりに広がっています。辞典などでは「ルール工業地帯」と書かれていることもあります。
ここで工業が発達したのは、ドイツ最大のルール炭田の石炭があったからです。炭田は、石炭がたくさんとれる所のことです。この石炭と鉄鉱石を結びつけて、鉄をつくる鉄鋼業がさかんになりました。
石炭や鉄鉱石を運んだのは、ライン川の船です。ライン川の船がルールの石炭を運び出し、鉄鋼業に使う鉄鉱石を運び込みました。ルールは、川や運河の水運にめぐまれた地域なのです。やがて機械や化学の工業も集まり、ルールはドイツを代表する重工業地帯になりました。重工業は、鉄鋼や機械のような、重いものをつくる工業です。
ルールの鉄鋼業の理由は、「石炭」「鉄鉱石」「ライン川の水運」の3つで説明できます。記述問題では、この3つの語を入れて書きます。
ルールの石炭と鉄鋼は、1952年から、国どうしがいっしょに管理するものになりました。石炭と鉄鋼をいっしょに管理するこのしくみは、No.27「EUの誕生と統合」で見たものです。
石炭から石油へ 1950年代をピークに石炭が減る
その後、エネルギーの中心は石炭から石油に変わっていきました。すると、ルールの石炭は石油などにおされて、生産が減っていきます。1950年代をピークに石炭の生産が減り、炭鉱も大きく減りました。そして1980年代からは、重工業もおとろえ、経済が後退して失業率も高くなりました。
それでも、ルールの工業がなくなったわけではありません。2024年の統計で、ドイツはEUの国の中でいちばん多く鉄鋼をつくっています。
項目(2024年) | ドイツ | EU(2024年の時点の加盟国27か国の合計) |
|---|---|---|
鉄鋼の生産量 | 約3720万t(EUの国の中で1位) | 約1億2950万t |
EUの合計にしめる割合 | 28.7% | 100% |
出典: worldsteel(世界鉄鋼協会)2024年の鉄鋼の生産量の発表(2024年、単位: t=トン。百万トンの値を万トンに直した。EUは2024年の時点の加盟国27か国の合計。割合は計算値)
EUの鉄鋼の28.7%を、ドイツ1国でつくっています。おとろえたのは炭鉱と重工業の話で、ここを取り違えないようにします。
工業の場所の移り変わり 重工業から石油化学、先端技術へ
ヨーロッパの工業がさかんな場所は、時代とともに移ってきました。
時期 | 工業の種類 | おもな場所 | 例 |
|---|---|---|---|
18世紀から | 重工業(鉄鋼など) | 石炭や鉄鉱石のとれる所 | ルール工業地域 |
1960年代から | 石油化学工業 | 港のある海ぞいの臨海部 | ロッテルダム |
現在 | 先端技術産業 | 大都市の近く | トゥールーズ・ミュンヘン |
1960年代からさかんになった石油化学工業は、石油などを原料にして、プラスチック(合成樹脂)や合成繊維などをつくる工業です。この工業は、海ぞいの臨海部で発達しました。
たとえば、オランダの南西部、ライン川の河口の近くにある港町のロッテルダムです。ロッテルダムはヨーロッパ最大の石油の輸入基地で、石油化学工業がさかんです。ロッテルダムのように、石油を輸入する港のそばで、石油化学工業が発達しました。
そして今は、大都市の近くで先端技術産業がさかんになっています。「重工業 → 石油化学工業 → 先端技術産業」の順番は、場所と組にして問われます。
2航空機の国際分業 1970年にできたエアバス社とトゥールーズ
先端技術産業 ミュンヘンの自動車・電気
先端技術産業は、いちばん新しい技術で、コンピューターや航空機、宇宙の機械などをつくる産業です。ハイテク産業ともいいます。
ヨーロッパの工業の中心は、鉄鋼などの重工業から、こうした先端技術産業へ移ってきました。ドイツでは、南部のミュンヘンなどで、自動車や電気の工業が伸びています。
エアバス社 部品は国ごとに、組み立てはトゥールーズなどで
ヨーロッパの代表的な航空機メーカーが、エアバス社です。1970年に、フランスやドイツなどの国の会社がいっしょになってつくりました。本社は、フランスの南西部にあるトゥールーズです。トゥールーズは、ヨーロッパの航空機工業の中心地です。
エアバスの飛行機は、イギリスやドイツ、スペイン、フランスなどの国で部品を分けてつくります。その部品を貨物機などでトゥールーズなどに運び、組み立てます。今は、組み立ての工場がドイツなどにもあります。
このように、国どうしで仕事を分け合うことを国際分業といいます。それぞれの国が得意なものをつくり、ほかは貿易で手に入れる、という考え方です。エアバスの場合は、部品づくりを国どうしで分け合っています。
部品をつくるのはいくつもの国で、組み立てるのはトゥールーズなどです。この向きは逆にしないようにします。
なぜ国どうしで分けてつくるのか
理由は3つあります。
1つ目は、飛行機をつくるには多額のお金がかかり、1つの国だけでは続けにくいことです。2つ目は、アメリカの会社に対抗するために、ヨーロッパの国々が力を合わせたことです。3つ目は、EUの中では関税がかからないので、部品を国から国へ運びやすいことです。関税は、輸入するものにかける税金のことです。
今では、エアバス社はアメリカのボーイング社と並ぶ、世界の大きな航空機メーカーになりました。エアバス社の発表によると、2024年に766機の旅客機などを引き渡しています。
出典: Airbus(エアバス社)2024年の民間機の引き渡し数の発表(2024年、単位: 機)
国際分業の例はエアバス、と答えられるだけでなく、「お金」と「アメリカ」の2つの語を使って理由まで書けるようにしておきましょう。
3東ヨーロッパへの工場の移転と風力発電 2004年のEU加盟と北海のまわり
工場の移転 賃金が安い東ヨーロッパへ
2004年に、ポーランドやチェコ、ハンガリーなどの東ヨーロッパの国がEUに加わりました。ブルガリアとルーマニアは2007年です。ポーランドは、ドイツの東どなりの国です。
東ヨーロッパの国は、西ヨーロッパの国より賃金が安いのが特徴です。下の表は、会社が働く人に払うお金の1時間あたりの額(労働費用)をくらべたものです。
国 | 1時間あたりの労働費用(2024年) |
|---|---|
ドイツ | 43.5ユーロ |
フランス | 43.4ユーロ |
チェコ | 18.1ユーロ |
ポーランド | 17.3ユーロ |
ハンガリー | 14.0ユーロ |
ルーマニア | 12.4ユーロ |
ブルガリア | 10.6ユーロ |
EU(2024年の時点の加盟国27か国の平均) | 33.5ユーロ |
出典: Eurostat(EU統計局)労働費用の水準(2024年、単位: ユーロ。産業全体〔公務などを除く〕の1時間あたりの値。表の並びは順位ではない。EUは2024年の時点の加盟国27か国の値)
2024年の統計で、ポーランドやハンガリーの労働費用は、ドイツの半分以下です。ドイツはポーランドの約2.5倍になります。
そこで、ドイツなど西ヨーロッパの国から、東ヨーロッパへ工場が移ってきました。これを工場の移転といいます。賃金の安い東ヨーロッパの国に工場をつくって、働く人に払うお金(人件費)をおさえます。安くつくった製品は、関税のかからないEUの中で売ります。
たとえば、ポーランドでは外国の会社の自動車工場が動き、EUに加わってから自動車の生産が大きく伸びました。ハンガリーには、日本の自動車会社の組み立て工場があります。チェコの自動車会社は、ドイツの会社のグループに入りました。
東ヨーロッパに工場が来る理由は、「賃金」と「関税」の2つの語で説明します。賃金が安く、関税のかからないEUの中で売れるからです。
一方で、働く人のほうは、高い賃金を求めて西へ動くこともあります。この話は、No.30「EUがかかえる課題」でくわしく扱います。
再生可能エネルギーと風力発電 北海から吹く強い西風
再生可能エネルギーは、太陽の光や風、水の力など、自然の力で、なくならずにくり返し使えるエネルギーです。石炭や石油と違って、地球温暖化の原因になる二酸化炭素を、ほとんど出しません。
その1つが風力発電です。風で風車を回して電気をつくる発電です。北海のまわりのドイツやデンマーク、オランダは、北海から吹く強い西風にめぐまれて、風力発電が進んでいます。陸の上だけでなく、海の上にも風車を建てています。
国 | 風力の発電量(2024年) | 発電量にしめる風力の割合(2024年) |
|---|---|---|
ドイツ | 13万8914GWh(EUの国の中で1位) | 27.0% |
デンマーク | 2万553GWh | 58.2%(EUの国の中で1位) |
EU(2024年の時点の加盟国27か国の合計) | 49万37GWh | 17.3% |
出典: Eurostat(EU統計局)燃料別の発電量(2024年、単位: GWh=ギガワット時。割合は風力の発電量を全体の発電量で割った計算値。EUは2024年の時点の加盟国27か国の合計)
2024年の統計で、風力でつくる電気の量がEUでいちばん多いのはドイツです。一方、つくる電気のうち風力の割合がいちばん高いのはデンマークで、電気のおよそ6割を風力でつくっています。量はドイツ、割合はデンマークと、何をくらべた順位なのかを分けて読みます。
まとめ 石炭の工業から、国をこえた工業と自然のエネルギーへ
ヨーロッパの工業は、次のように一本の線でつなげられます。
18世紀後半にイギリスで産業革命 → ドイツ西部のルール工業地域で、石炭と鉄鉱石による鉄鋼業がさかんに → エネルギーの中心が石油に変わり、1950年代をピークに石炭の生産が減る → 工業の中心は臨海部の石油化学工業、大都市の近くの先端技術産業へ
そのうえで、エアバス社は国どうしで部品を分けてつくる国際分業で飛行機をつくり、2004年からEUに加わった東ヨーロッパには、賃金が安いことから西ヨーロッパの国から工場が移ってきました。そして北海のまわりでは、再生可能エネルギーの風力発電が進んでいます。
まとめの表
テーマ | 場所 | 押さえること | 統計(何の数・調査年次・出典) |
|---|---|---|---|
産業革命 | イギリスから、ヨーロッパの国々へ | 18世紀後半にイギリスで始まる。ドイツでは19世紀中ごろ | 統計なし |
ルール工業地域 | ドイツの西部・ルール川のまわり | ルール炭田の石炭と鉄鉱石で鉄鋼業。ライン川の水運。1950年代をピークに石炭の生産が減り、1980年代から重工業もおとろえる | 鉄鋼の生産量の EU での1位 ドイツ(EUの28.7%。2024年・worldsteel) |
工業の場所の移り変わり | 石炭や鉄鉱石のとれる所 → 臨海部 → 大都市の近く | 重工業 → 石油化学工業(ロッテルダム)→ 先端技術産業(トゥールーズ・ミュンヘン) | 統計なし |
エアバス社 | 本社はフランスの南西部のトゥールーズ | 国際分業。部品はイギリス・ドイツ・スペイン・フランスなどで、組み立てはトゥールーズなどで。理由はお金・アメリカの会社への対抗・関税なし | 民間機の引き渡し 766機(2024年・Airbus) |
東ヨーロッパへの工場の移転 | ポーランド・チェコ・ハンガリーなど | 2004年からEUに加わった国。賃金が安く、関税のかからないEUの中で売れるので、工場が移ってきた | 1時間あたりの労働費用 ポーランド 17.3ユーロ・ドイツ 43.5ユーロ(2024年・Eurostat) |
風力発電 | 北海のまわりのドイツ・デンマーク・オランダ | 再生可能エネルギーの1つ。北海から吹く強い西風にめぐまれる。海の上にも風車 | 風力の発電量の EU での1位 ドイツ・発電量にしめる風力の割合の EU での1位 デンマーク(58.2%)(2024年・Eurostat) |
用語のまとめ
用語 | 種類 | 意味 |
|---|---|---|
産業革命 | ことがら | 新しい技術で産業や社会が大きく変わったこと。18世紀後半にイギリスで始まった |
ルール工業地域 | 工業地域 | ドイツの西部、ライン川の支流ルール川のまわりにある、ドイツでいちばん大きな工業地域。石炭と鉄鉱石で鉄鋼業が発達した |
炭田 | 資源 | 石炭がたくさんとれる所 |
鉄鋼業 | 工業 | 石炭と鉄鉱石を使って、鉄をつくる工業 |
重工業 | 工業 | 鉄鋼や機械のような、重いものをつくる工業 |
石油化学工業 | 工業 | 石油などを原料にして、プラスチック(合成樹脂)や合成繊維などをつくる工業 |
臨海部 | 地域 | 海ぞいの地域。ヨーロッパでは1960年代から石油化学工業が発達した |
ロッテルダム | 都市 | オランダの南西部、ライン川の河口の近くにある港町。ヨーロッパ最大の石油の輸入基地 |
先端技術産業 | 産業 | いちばん新しい技術で、コンピューターや航空機、宇宙の機械などをつくる産業。ハイテク産業ともいう |
エアバス社 | 会社 | ヨーロッパの代表的な航空機メーカー。1970年にフランス・ドイツなどの国の会社がいっしょになってつくった |
トゥールーズ | 都市 | フランスの南西部の都市。エアバス社の本社があり、ヨーロッパの航空機工業の中心地 |
国際分業 | しくみ | 国どうしで仕事を分け合うこと。それぞれの国が得意なものをつくり、ほかは貿易で手に入れる |
関税 | 税金 | 輸入するものにかける税金。EUの国どうしの貿易ではかからない |
東ヨーロッパ | 地域 | ポーランド・チェコ・ハンガリーなどの国。2004年からEUに加わり、西ヨーロッパの国から工場が移ってきた |
人件費 | お金 | 会社が働く人に払うお金 |
工場の移転 | ことがら | 工場を別の場所へ移すこと。ヨーロッパでは西ヨーロッパの国から賃金の安い東ヨーロッパの国へ |
再生可能エネルギー | エネルギー | 太陽の光や風、水の力など、自然の力で、なくならずにくり返し使えるエネルギー。二酸化炭素をほとんど出さない |
風力発電 | 発電 | 風で風車を回して電気をつくる発電。北海のまわりのドイツ・デンマーク・オランダで進んでいる |
よくある間違い
ルール工業地域は、ルール炭田の石炭をもとに発達しました。 石炭と鉄鉱石を結びつけた鉄鋼業が中心で、ライン川の船がそれを運びました。そのあとエネルギーの中心が石油に変わると、ルールの石炭の生産は減りました。
ルール工業地域があるのは、ドイツの西部です。 ライン川の支流のルール川のまわりです。地図で場所を答える問題でも、「ドイツの西部」で押さえます。
1980年代から重工業もおとろえましたが、2024年の統計でも、ドイツはEUの国の中でいちばん鉄鋼をつくる国です。 炭鉱が減ったことと、今のドイツの鉄鋼の生産量は分けて覚えます。
エアバスの飛行機は、いくつもの国で部品をつくり、トゥールーズなどで組み立てます。 部品の国と組み立ての場所の向きを入れかえた文は、正誤問題のまちがいの文として出ます。
東ヨーロッパに工場が移った理由は、賃金が安いことと、関税のかからないEUの中で製品を売れることです。 記述では「賃金」と「関税」の2つの語を入れて書きます。
北海のまわりのドイツ・デンマーク・オランダは、北海から吹く強い西風にめぐまれて、風力発電が進んでいます。 理由を聞かれたら「北海から吹く強い西風」と書きます。
2024年の統計で、風力の発電量はドイツ、発電量にしめる風力の割合はデンマークが、EUの国の中で1位です。 量と割合のどちらの順位かを、問題文で確かめてから答えます。
プリントと動画で確認しよう
このテーマの単語テストと問題集は、下のボタンからダウンロードできます。どちらも答えと解説がついています。
工業の場所の移り変わりをざっと見たいときはアニメーション編を、エアバスの国際分業の理由や統計の見方までくわしく知りたいときは詳細解説編の動画を見てください(動画は準備中です)。
重要語句 ルール工業地域、エアバス、航空機の国際分業、再生可能エネルギー