解説
アメリカ合衆国は、とうもろこしや大豆、小麦をたくさんつくり、世界の国々へ送り出しています。そのため、アメリカは「世界の食料庫」と呼ばれています。広い土地のどこで何をつくっているのか、どんなやり方でたくさんつくっているのか、そして統計で見るとどれくらいなのか。この3つが、この単元の中心です。
アメリカの平原 ロッキー山脈の東に広がる大平原
アメリカ合衆国は、北アメリカ州にある、とても広い国です。農業の舞台になっているのは、ロッキー山脈の東に広がる大平原と、その東の草原です。
ロッキー山脈の東には、グレートプレーンズという大平原が広がっています。その東、ミシシッピ川の流域には、プレーリーという草原が広がります。プレーリーは土が肥えていて、小麦やとうもろこし、綿花などが栽培されてきました。ミシシッピ川は、国の中央を北から南へ流れる大きな川です。
西から順に「ロッキー山脈 → グレートプレーンズ → プレーリー」と並びます。地図の上で、この順番に指でたどれるようにしておくと、このあとの農業の場所が覚えやすくなります。
1場所ごとに違う作物 西経100度と適地適作
西経100度と年降水量500mm
アメリカの農業を見るときは、地図に1本の線を引いて考えます。グレートプレーンズに沿って通る経線、西経100度の線です。
西経100度のあたりは、年降水量500mmの線とほぼ重なります。西経100度より東は気候が湿っていて、年降水量が500mm以上あり、雨が比較的多い地域です。西経100度をこえて西へ行くと雨が少なくなり、短い草の草原が広がります。2つの線は「ほぼ」重なるのであって、西経100度は雨の量の分かれ目を知るための目安の線です。
東は雨が多め、西は雨が少なめ。この雨のちがいが、作物の分かれ目になります。
適地適作 気候に合わせて作物の地域が帯のように並ぶ
適地適作とは、その土地の気候や土に合った作物をつくることです。漢字を分けると、「適地」はその作物に合う土地、「適作」はその土地に適した作物という意味です。地域の気候や土などの自然環境に合わせて、つくるものを決める農業を、適地適作といいます。
アメリカでは、気候に合わせて、北から酪農、とうもろこし、綿花と、作物の地域が東西に長い帯のように並んでいます。地域ごとの作物は、次のとおりです。
北東・五大湖のまわり 五大湖は、アメリカとカナダの国境に連なる5つの大きな湖です。このあたりは涼しい気候で、牧草を育てて乳牛を飼う酪農がさかんです。酪農は、牛などを飼って、牛乳や乳製品のもとになる乳をとる農業です。
中西部(五大湖の南西) とうもろこしと大豆の大産地です。とうもろこしの多くは豚や肉牛のえさになるので、このあたりでは家畜を育てるのもさかんです。とうもろこしと大豆などを、順番に植えかえることも行われています。
西経100度の西側・グレートプレーンズ 雨の少ない平原で、小麦の栽培と、牛の放牧が中心です。放牧は、牛などを広い草原に放し飼いにして育てることです。乾いた平原でも、水をまいて小麦などをつくっている所があります。
南部 綿花の地域として知られています。今は1つの作物だけでなく、大豆やとうもろこしもつくられています。
太平洋側・カリフォルニア州 夏に乾いて冬に雨が降る気候です。この気候に合わせて、果物や野菜などをつくる地中海式農業が行われています。No.28「ヨーロッパの農業」の、地中海のまわりと同じ名前の農業です。
西経100度より西でも、太平洋側の地中海式農業や、水をまいてつくる小麦があります。「西経100度の西は雨が少ない」と「西でどんな農業をしているか」は、分けて覚えます。
2大きな規模の農業 企業的な農業・センターピボット・フィードロット
企業的な農業 少ない人手でたくさんつくる
アメリカの農業は機械化が進んでいて、1つの農場が経営する土地がとても広いのが特色です。そのため、農業で働く人の数は少ないのに、たくさん生産できます。
このような農業を、企業的な農業といいます。利益を上げることを目的に、大型の機械を使って広い農場を経営する農業のことで、「企業的農業」という言い方もあります。土地の広さと機械化のほかに、品種改良なども、アメリカの農業の高い生産性を支えてきました。
センターピボット 円い畑のしくみ
雨の少ないグレートプレーンズでは、上空から見ると、円い形の畑が見られます。
畑が円いのは、畑の真ん中にある井戸から地下水をくみ上げ、車輪のついた長いパイプが、真ん中を中心にぐるっと回りながら作物に水をまくからです。パイプが回った跡が円になるので、畑も円くなります。このしくみをセンターピボットといいます。
水を引いて畑にまくことをかんがいといいます。センターピボットは、効率よく水をまけるかんがいのやり方です。おかげで乾いた土地でも大規模に作物をつくれるようになりましたが、くみ上げている地下水がだんだん減ってきています。地下水の水位の低下が年々進んでいて、この課題は、No.38「アメリカの生活と地球的課題」でもう一度出てきます。
フィードロット(肥育場) 出荷の前に太らせる
肉牛は、まず放牧で育てます。そして出荷の前になると、牛を囲いの中に集めて、穀物などのえさを与えて太らせます。この太らせるための囲いをフィードロットといい、日本語では肥育場といいます。肥育とは、家畜を太らせることです。
フィードロットは、牛を育てる最後の仕上げの場所です。「放牧で育てる → フィードロットで太らせる → 出荷」の順番で押さえます。
アグリビジネスと穀物メジャー
畑で作物を育てるには、種子や肥料、農業機械、飼料、農薬などが必要です。とれた作物は、加工したり、貯蔵したり、運んだり、売ったりして、私たちのところに届きます。このように、農業と、農業に関係する産業をまとめた全体を、アグリビジネスといいます。
その中でも、とくに大きな力をもっているのが穀物メジャーです。穀物メジャーは、世界の穀物の取引に強い影響力をもつ、大きな多国籍の穀物商社です。多国籍企業は、いくつもの国にまたがって活動する企業のことで、次のNo.37「アメリカの工業」でくわしく出てきます。
アグリビジネスは産業全体の名前、穀物メジャーはその中の大きな会社です。この2つの区別は、テストでひっかけになりやすいところです。
3世界の食料庫 2024年の統計で見るアメリカの農産物
アメリカの主な農産物が、世界の中で何位なのかを表にまとめます。かっこの中は、アメリカの量が世界の合計にしめる割合です。
作物 | 生産量の世界順位(2024年) | 輸出量の世界順位(2024年) |
|---|---|---|
とうもろこし | 1位(世界の31.0%) | 1位(世界の30.9%) |
大豆 | 2位(29.9%。1位はブラジル) | 2位(29.3%。1位はブラジル) |
小麦 | 4位(6.7%。1位は中国) | 3位(10.8%。1位はロシア) |
綿花 | ― | 2位(27.3%。1位はブラジル) |
出典: FAOSTAT(国連食糧農業機関の統計データベース)作物の生産量・輸出量(2024年、単位: t=トンの値から計算した割合。生産の割合は世界の合計に対する割合、輸出の割合は国別の値の合計に対する割合で、どちらも計算値。綿花の輸出は繰綿〔種を取りのぞいた綿〕の量。中国は台湾・香港をふくまない値)
2024年の統計で、生産も輸出も世界1位なのは、この表の中ではとうもろこしです。アメリカのとうもろこしの生産量は約3億7763万tで、世界の約3割をしめています。大豆は、2024年の統計で、生産量も輸出量もブラジルに次いで2位です。
小麦は、2024年の統計で、生産量は世界4位ですが、輸出量は3位です。生産の順位より輸出の順位のほうが高いのが、小麦の特色です。綿花も、2024年の統計で輸出量はブラジルに次いで2位で、世界の上位に入っています。
順位は、作物によっても、年によってもちがいます。たとえば、とうもろこしの輸出量は、2023年の統計ではブラジルが1位で、アメリカは2位でした。綿花の輸出量は、2023年の統計ではアメリカが1位でした。
出典: FAOSTAT(国連食糧農業機関の統計データベース)作物の輸出量(2023年、単位: t)
教科書や資料集のグラフには、もっと前の年の統計が使われていることがあります。たとえば2017年の統計では、小麦の輸出量でアメリカは2位でした。グラフの順位がこの記事とちがうときは、何年の統計かを見くらべてください。
出典: FAOSTAT(国連食糧農業機関の統計データベース)小麦の輸出量(2017年、単位: t)
このように、たくさんの農産物を世界に送り出していることから、アメリカは世界の食料庫と呼ばれています。
まとめ 広い土地・土地に合った作物・機械と企業の力
アメリカの農業は、次のように一本の線でつなげられます。
西経100度のあたりを境に、東は雨が比較的多く、西は雨が少ない → 気候に合わせて、場所ごとに作物を分ける適地適作 → 大型の機械を使う企業的な農業・センターピボット・フィードロットで、少ない人手でたくさん生産 → 2024年の統計でとうもろこしは生産・輸出とも世界1位、大豆・小麦・綿花も輸出は世界の上位 → 世界の食料庫
広い土地で、土地に合った作物を、機械と企業の力で大量につくるから、アメリカは世界に食料を送り出せるのです。
まとめの表
地域・ことがら | 場所 | 押さえること |
|---|---|---|
酪農 | 北東・五大湖のまわり | 涼しい気候。牧草を育てて乳牛を飼い、乳をとる |
とうもろこし・大豆 | 中西部(五大湖の南西) | とうもろこしの多くは豚や肉牛のえさ。家畜の飼育もさかん |
小麦・放牧 | 西経100度の西側の乾いた平原(グレートプレーンズ) | 雨が少ない。小麦の栽培と牛の放牧。水をまいて小麦をつくる所もある |
綿花 | 南部 | 今は大豆・とうもろこしもつくる |
地中海式農業 | 太平洋側のカリフォルニア州 | 夏に乾いて冬に雨が降る気候。果物・野菜など |
企業的な農業 | ― | 利益を上げることを目的に、大型機械で広い農場を経営する。少ない人手でたくさん生産 |
センターピボット | 雨の少ないグレートプレーンズ | 井戸の地下水をくみ上げ、回るパイプで水をまく → 円い畑。地下水が減ってきている |
フィードロット(肥育場) | ― | 放牧で育てた牛を、出荷の前に囲いで穀物などのえさを与えて太らせる |
世界の食料庫 | アメリカ合衆国 | 2024年の統計(FAOSTAT)で、とうもろこしは生産・輸出とも世界1位。大豆は生産・輸出とも2位、小麦は生産4位・輸出3位 |
用語のまとめ
用語 | 種類 | 意味 |
|---|---|---|
西経100度 | 経線 | グレートプレーンズに沿って通る経線。このあたりが年降水量500mmの線とほぼ重なる |
年降水量500mm | 雨の量の目安 | 西経100度より東は年降水量500mm以上で雨が比較的多く、西は雨が少ない |
適地適作 | 農業の考え方 | その土地の気候や土に合った作物をつくること |
酪農 | 農業 | 牛などを飼って、牛乳や乳製品のもとになる乳をとる農業 |
放牧 | 家畜の育て方 | 牛などを広い草原に放し飼いにして育てること |
地中海式農業 | 農業 | 夏に乾いて冬に雨が降る気候の地域で行われる農業。乾く時期の果樹の栽培や、冬の小麦などが中心。アメリカでは太平洋側のカリフォルニア州で、果物や野菜などをつくる |
企業的な農業 | 農業の形 | 利益を上げることを目的に、大型の機械を使って広い農場を経営する農業。企業的農業ともいう |
センターピボット | かんがいのしくみ | 畑の真ん中の井戸から地下水をくみ上げ、車輪のついた長いパイプが回りながら水をまくしくみ。畑が円くなる |
かんがい | 農業の技術 | 水を引いて畑にまくこと |
フィードロット(肥育場) | 施設 | 放牧で育てた肉牛を、出荷の前に囲いの中で穀物などのえさを与えて太らせる場所 |
アグリビジネス | 産業 | 農業と、種子・肥料・農業機械をつくる産業や、作物を加工・貯蔵・輸送・販売する産業をまとめた全体 |
穀物メジャー | 会社 | 世界の穀物の取引に強い影響力をもつ、大きな多国籍の穀物商社 |
世界の食料庫 | アメリカの呼び名 | たくさんの農産物を世界に送り出していることからついた、アメリカ合衆国の呼び名 |
よくある間違い
2024年の統計で、生産も輸出も世界1位なのは、とうもろこし・大豆・小麦の中ではとうもろこしです。 大豆は生産・輸出ともブラジルに次いで2位、小麦は生産4位・輸出3位です。作物ごとに、何年の統計かとセットで覚えます。
西経100度のあたりは、年降水量500mmの線とほぼ重なります。 「ほぼ」が大事なところで、西経100度は雨の量の分かれ目を知る目安の線です。
西経100度より西でも、太平洋側のカリフォルニア州では地中海式農業が行われ、乾いた平原でも水をまいて小麦をつくる所があります。 グレートプレーンズは小麦と放牧、太平洋側は地中海式農業、と分けて覚えます。
酪農は乳をとるために乳牛を飼う農業、放牧は牛などを広い草原に放して育てることです。 どちらも牛が出てくるので、ごちゃごちゃになりやすいところです。
フィードロット(肥育場)は、放牧で育てた牛を、出荷の前に囲いの中で太らせる場所です。 記述問題では「出荷の前に」「囲いの中で」「えさを与えて太らせる」を入れて書きます。
センターピボットで乾いた土地でも大規模に作物をつくれるようになりましたが、くみ上げる地下水が減ってきています。 よい点と課題を、セットで説明できるようにします。
アグリビジネスは農業に関係する産業全体の名前、穀物メジャーはその中の大きな穀物商社です。 「全体」と「その中の会社」の関係で区別します。
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地域ごとの作物の並びをざっと見たいときはアニメーション編を、センターピボットのしくみや統計の見方までくわしく知りたいときは詳細解説編の動画を見てください(動画は準備中です)。
重要語句 適地適作、センターピボット、アグリビジネス、穀物メジャー